九州住環境研究会

No.91 地震災害は基礎構造や温熱環境の選択で軽減!
必ずやってくる「南海トラフ大地震」住宅を新築するなら忘れてはならない災害対策!
天災は忘れた頃に来る。喉元過ぎれば熱さを忘れる。諺が語る経験に従うべし。

2017年10月27日更新


熊本地震が学習させてくれた耐震対策の重要性!

第99号では「省エネ基準」の義務化に伴う耐震性能の『既存不適格』について述べましたが、熊本地震から学ぶべき、耐震対策について、多くの報告がなされています。
1981年に「建築基準法」が改正され、それ以前を『旧耐震』、それ以降の耐震基準が現行の「新耐震」です。熊本地震では『旧耐震』に属する建物の多くは倒壊しましたが「新耐震」の建物は、深度6〜7程度の地震でも倒壊による死者を出さない、という基準設計通り、直下型地震地域以外では、ほとんど倒壊は免れ、最低限の耐震目標は維持できたようです。
熊本地震では、地震が直接的な原因で亡くなられた方は50人ですが、震災後に避難先で亡くなられた方が、200人以上にのぼり、現在もなお増え続けています。住宅は災害時に命を守るだけでは、不十分だと言うことが分かって来ました。若い被災者ならまだしも、高齢者の場合は、住宅の再建も難しく、将来に対する、絶望的な雰囲気が命を削っているようです。

耐震性能と基礎の関係

最も重要なのは基礎の強度、耐圧盤配筋「ベタ基礎」の施工。

上図・1は、①一般的な布基礎構造、②耐震構造、③制振・免震構造の3種類の耐震構造です。
2020年の「建築基準法」の改正では、木造住宅の耐震性の向上が盛り込まれて、家を建てる前に地盤調査を行って、地盤が弱い場合は基礎杭を打ったり、ベタ基礎を採用する事が義務づけられています。
①の布基礎は、外壁の外周だけに鉄筋コンクリートの布基礎を施工するだけなので、地盤のズレや液状化には対応しきれず、地震動による基礎の変形や沈下で倒壊する危険性があります。
③の制振や免震構造の場合は、基礎も耐圧盤布基礎の「ベタ基礎」が採用されている場合が多いようですが、器具や設備を採用するため、独自の基礎を施工する場合も有ります。
免震や制振は、鉄骨造りの大型建物用に開発されており、壁紙や塗り壁で施工される木造住宅では、建物を動かす事で様々な弊害が出る場合も多く、後始末が大変になる場合もあります。壁の中に設置される機器類のメンテナンスや耐用年数等、様々な事後処理を考えれば、一般住宅では、もっとシンプルな耐震構造による、耐震や災害対策を考えた方が良さそうです。

②の耐圧盤配筋布基礎「ベタ基礎」をお勧めします。

基礎内部を耐圧盤にする為に基礎内部にも、布基礎と同じように配筋して、例えるならば舟のような構造に仕上げます。
住宅は基礎と土台がアンカーボルトで緊結され、基礎から屋根の天辺まで、基礎の動きに合わせて同じように動きます。
地震で揺れる場合もバラバラではなく、海に浮かぶ舟の様に一体化して同じ方向に揺れ動きます。
熊本地震でも鉄筋コンクリートで支ええられた耐圧盤配筋「ベタ基礎」は大きな揺れから住宅を守り、活断層の真上でもほとんど損傷がなかったことが報告され「ベタ基礎」の有効性が証明されています。
耐震性ばかりでなく、住宅の高耐久性能を考えるならば、地盤には問題が無くとも、布基礎で納めるのではなく、耐圧盤配筋「ベタ基礎」での施工をお勧めします。

「耐震性能」と「温熱環境」の最も重要な関係。

耐震性能について基礎の造り方や構造強度など、物理的に重要な部分は、セオリー通りに施工されたとしても、それよりも、もっと重要なのは、住宅の劣化による耐久性能の弱体化や住宅寿命の短命化です。温熱環境と耐震性能等の住宅の耐久性能には、非常に密接な関係があります。それは結露と白蟻の問題で、適切な温熱環境は、我々人間の快適な生活に必要なだけではなく、住環境そのものの長寿命化に必要な事です。結露が頻繁に発生している住宅は構造材等、目に見えない部分の劣化を早めています。更に白蟻や腐朽菌の被害を受けている危険性があります。
耐震性能を保つためには、温熱環境を高めて、結露の発生を完璧に防ぐ必要があります。カビの発生もダニの発生も、結露が発生する室内環境に原因があります。住宅の高耐久性能は、金物などを多用しても、本当の耐久性や強度を高めることには繋がりません。人が快適な「温熱環境」は、家族の健康を守るだけではなく、無結露で住宅の高耐久性も獲得して、地震などの自然災害から我々を守ってくれます。
省エネルギーで、カビやダニなどの被害を受けない、住宅も人も健康な環境でもあるのです。

本当の強度を知るためには材料に惑わされない?

住宅の強度は、素材の選択や施工法によっても影響を受けます。金物と木材と言うように、強度の異なる素材を緊結しても揺れ動くと、弱い方が負けてしまうのは明らかなことです。
住宅には様々な矛盾する素材が使用されていますが、本当にそれを使う意味を理解して使っているのか、疑問に思うことも多々あります。
下表・1は「地震保険」の割引制度です。地震保険は火災保険とのセット加入が原則で、保険金額は火災保険の二分の一が限度。耐震等級1は「建築基準法」の等級1で、阪神淡路大震災でも倒壊しない強度が求められます。がんじがらめの等級3が必要かどうか?耐圧盤配筋「ベタ基礎」で施工することだけはお勧めしておきます。昔から使用されてきたシンプルな素材が原点だと思いますので担当者とじっくりご相談ください。

地震保険の割引制度(出展:財務省)