2015年05月28日更新
本年4月、経産省は日本の2030年の電源構成の素案を提示しました。天然ガス27%、石炭26%、石油3%、自然エネルギー22~24%(内訳は、水力8.8~9.1%、太陽光7%、バイオエネルギー3.7~4.6%、風力1.7%、地熱1~1.1%)原子力20~22%というもので、日本の自然エネルギー電力は、2014年度末で水力を含めて12%を超える見込みであると言うものですが、15年後も10%程度しか伸びないという予測です。2030年には40%や50%の導入目標が当たり前になっている自然エネルギー先進国と比べると、今回の目標値は明らかに低すぎ、その理由が、自然エネルギーのコストが高いからだと言う説明で最も安い電源は原子力だと言うもので、どうしても原始力発電から逃れられない、我が国の時代錯誤的な電力政策が大きな問題になっています。
世界的には、自然エネルギーの増加はめざましく、2014年単年の太陽光発電の増加は44.2百万kWで、世界全体で合計約1億8千3百万kWとなりました。風力発電も51.4百万kW増加し、世界全体で合計約3億7千万kWとなり、どちらも毎週、約100万kWの容量を伸ばしている計算になります。
福島原発事故以来、原子力発電を止めたドイツのメルケル首相は、来日前のビデオメッセージで、日本にエネルギー転換を呼びかけました。また、来日時の講演では、自らが科学者として、今まで長い間、核の平和利用(原子力発電)を推進してきましたが、その考えを変えたのは「高度な技術水準を持つ日本でも福島原発のような事故が起きたことから、ドイツは別のエネルギー制度を築き上げることに決めた。」と語りました。
メルケル首相の発言のとおり、ドイツでは着実に自然エネルギーが増加し、すでに基幹電源としての地位を築いています。2014年のドイツ国内電力消費量に占める自然エネルギーの比率は27.8%に達し(確定値)、前年の25.4%から2.4ポイント分上昇し、今年のドイツの一般家庭用電気料金が減少に転じると発表しています。平均的な一般家庭が今年支払う電気料金は毎月約84ユーロで、前年に比べて、約1%減ることになり減少率は微量ですが、固定価格買い取り制度の導入以降、上がり続けてきた家庭用電気料金が下がるのは初めてのことだそうです。
ドイツは、順調に自然エネルギーの拡大を進めていますが、日本でよく言われるように、自然エネルギーのコストは本当に割高なのでしょうか?
ドイツの研究機関では、太陽光発電は近い将来、世界の多くの地域で最も安価な電源になるという見解を示しました。太陽光発電のコストは低減しており、現在ドイツの大規模太陽光発電施設は、9ユーロセント/kWh(約11.4円)以下のコストで電力を供給することができると言い、新型の石炭・天然ガス火力発電施設での発電コストは5~10ユーロセント/kWh(約6.4~12.7円)、原子力による発電コストは11ユーロセント/kWh(約14.0円)と算出しています。ドイツでは太陽光発電は化石燃料や原発による発電と同等の競争力レベルに達したことが判ります。
ドイツの環境シンクタンク(FÖS)が、今年1月に発表した研究レポート『本当の電力コスト』のなかで、ドイツ社会が負担している石炭火力と原子力発電の隠れたコストを計算している資料では、今年、石炭火力と原子力発電に対して社会が負担する隠れたコストは、11.0ユーロセント/kWh(約14.0円)で、自然エネルギーに対する賦課金額6.17ユーロセント/kWh(約7.8円)のおよそ倍額となり、実際の電気代に反映されづらい隠れたコストの中には、従来の発電方法に対する国の補助金や金銭的な優遇だけでなく、社会が負担する環境被害に関する費用や、放射性廃棄物の最終処分費用等の外部費用も含まれています。
ドイツで1970年以降、石炭火力・原子力発電促進のために、さまざまな形でつぎ込まれてきた補助金総額は、6410億ユーロ(81.5兆円)で、自然エネルギー促進のための補助金総額1020億ユーロ(約13兆円)に比べて6倍以上にものぼると言うことです。これがドイツの現実です。
ドイツの新規発電施設での1kWh当たりのコストは、発電原価に外部費用や過去の補助金額を計上すると太陽光発電が10.4~17.1ユーロセント(約13.2~21.8円)、石炭火力が12.6~16.7ユーロセント(約16.0~21.2円)、原子力が18.5~49.8ユーロセント(約23.5~63.4円)と試算されています。
石炭火力や原子力は、二酸化炭素排出による環境への悪影響や放射性廃棄物のリスク等、社会に与える負担を考慮した場合、自然エネルギーと比較して割高な電力源だということが言えます。日本の経産省の原子力発電ありきの試算は、世界的な趨勢から外れています。コスト高と言われてきた自然エネルギーの方が安いのであれば、ドイツ式の検討も必要だと思われます。