九州住環境研究会

家族の健康

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NEB「ノン・エナジー・ベネフィット」とは何か?
家族の健康を守る住宅

新建材が使われ始めた頃にはビニールクロスの柔軟剤から発生するVOC(揮発性有機化合物)が問題になってアトピー性皮膚炎や小児喘息が社会問題になりました。未だにこのような問題は解決されているとは言えない現状で、住宅が原因となる病気はまだまだ沢山あります。表題の「家族の健康を守る住宅」は、住宅を施工する施工店が守るべき最低限の約束です。

その① VOCは大丈夫?

昔のような健康被害を引き起こす材料は使われなくなりましたが、家具などの糊や塗装には微量ながらVOCを出すものがあります。施工中の換気でほとんどは無くなりますが、現在ではハイクリーンボードなどVOCを分解する石膏ボード等で施工しています。

その② 冬の室内温度差が最大の驚異に?

いま、住宅と健康に関して大きな問題となっているのはトイレ等の無暖房室の温度の低さと暖房室との温度差です。これは脳血管疾患や心臓病など成人病の発症原因ともなっていて、住宅の温熱環境の重要性は医学界からも指摘されています。

【ハイブリッド・エコ・ハートQ】は究極の省エネルギー住宅として開発されましたが、省エネルギーだけの追求では駄目だと言うことが判って参りました。省エネルギーだけなら我慢しても実現できるからです。多くの皆様の我慢による節約が返って取り返しのつかない病気を引き起こしてしまう場合もあるからです。下表のように事故と片付けられてきた死亡原因の中にも実際は、住宅の温熱環境が原因の心臓病や脳血管疾患が含まれている場合も多いようで、これを防ぐためには無暖房室の温熱環境の改善しか方法はありません。

省エネルギーは当たり前、NEBが大事です。

住宅新語にNEB「ノン・エナジー・ベネフィット」という言葉があります。今までは省エネルギーを実現させる「エナジー・ベネフィット」(省エネルギー)が問題とされて来ましたが、高性能住宅の役割は省エネルギーだけではなく、健康に対しても大きな影響がある事が分かってまいりました。住宅と健康の関係を明らかにする研究を「ノン・エナジー・ベネフィット」と言います。脳血管疾患や心臓病などの発症原因。交通事故死の3倍以上にもなっている浴室・トイレ等での転倒や溺死。これらは住宅の温熱環境を改善する事で、大きな効果が得られることがイギリスやニュージーランドの研究で判って来ました。我が国でも国土交通省の「ノン・エナジー・ベネフィット」の研究組織「健康維持増進住宅委員会」が国会内に設立され、各県に医師会と建築組合などの研究組織も生まれて共同研究が開始されています。

無暖房室でも10℃以上の温度が基本です。

脳血管や心臓病から身を守るためには、トイレや脱衣室等の無暖房室の温度を10℃以下に下げない事が重要です。しかし、多くの住宅では暖房していないと真冬に無暖房で10℃をキープすることは不可能ではないかと思います。これが成人病を発症する大きな原因でした。住宅の断熱性能は今までは、暖房器具で暖めた輻射熱を逃がさないために必要だと考えられてきましたが、輻射熱に頼らなくても室温が10℃以下にならない断熱性能が必要だと言うことが判って来ました。そのためには、従来の断熱材の2〜3倍以上の性能が要求されます。いま、高性能住宅が求められるのは家族の健康を守る為に必要だからです。

住宅の温熱環境は健康寿命の維持のために最も重要です。

死亡原因と死亡場所の関係

世界一の長寿国となった我が国ですが、平成21年度(平成25年厚生労働省発表)の医療費は36兆円弱で年々1兆円の規模で増え続けています。右表は、日本公衆衛生学会が「気象条件・死亡場所が死亡原因に与える影響」という調査内容で調査した結果ですが、死亡原因の月別死亡数を場所別に比較すると病院医療の進歩した現在では、自宅よりも病院での死亡率の方が高くなっています。
死亡原因の比較では新生物(主にガン)には、寒暖や時間などの法則性が無く年間の月別の変化はありません。その他の心疾患、脳血管疾患、溺死・溺水は、10月から増え始め1月をピークにして、冬期間の死亡率が高くなっていますが逆に、死亡率の減少は、6月〜8月の夏期に集中しています。要約しますと心疾患や脳血管疾患、溺死・溺水は、温度が低い冬期の死亡率が高くなり、温度の高い夏期に少なくなることが判ります。
しかしよく見てみると病院での死亡率は低下していますが、自宅での死亡率は減っているわけではありません。これは病院と自宅の夏の室内温度の管理が影響していると思われます。
ヒートショックも問題ですが、暑さを我慢することでも疾患を悪化させているのです。このデータで特に注目して頂きたいのは、溺死・溺水で、病院での死亡率よりも家庭での死亡率が圧倒的に高く、しかも冬期の死亡率が夏期とは比較にならないほど高率なことです。家庭での死亡率が高くなる原因は、溺死や溺水の原因が入浴時の室内の温度差(ヒートショック)が原因であることが考えられるからです。
入浴時に寒い脱衣所で脱衣し、風呂場に入った時点でヒートショックを起こし、風呂の中で転倒して溺死・溺水に繋がっているケースが考えられます。
心疾患・脳血管疾患、溺死・溺水の死亡率を軽減させるためには、ヒートショックを起こさせない温熱環境の快適性を持った住環境が重要になります。足を滑らせるなど、加齢による単純な原因も考えられますが、夏季と冬季の極端な死亡率の差から類推できる事は、暖房室と浴室・トイレ・廊下などとの極端な温度差です。
健康を維持するためには、温度差の少ない住環境が必要であることが判ります。

日本人の健康寿命は『男性70.42歳、女性73.62歳』です。(2010年・厚生労働省)

住宅から逃げる熱の量から、住宅の外皮全体の断熱性能を評価する基準に変更になりました。

脳血管疾患の都道府県別年齢調整死亡率【平成17年※10年ごとの調査】

出典:厚生労働省

【ハイブリッド・エコ・ハートQ】も確かに開発当初は省エネルギーを目指して参りましたが、上図のように脳血管疾患や心臓病の発症状況は、鹿児島県や高知県など、温暖で暮らしやすい地域に多くなっていることが判りました。下図のグラフも同じ傾向を示しています。高知も鹿児島も群馬・栃木なども働き者のお母さんの国です。この様な事実に出会った時、南九州だから寒さ対策は必要無いという思い込みは吹っ飛びました。一時的に寒くなる、この地域にこそ暖かい住宅が必要なのです。温熱環境は命を守る住宅性能です。

健康寿命を延ばすのも温熱環境が左右します。

健康寿命とは、自立した生活ができる生存期間のことで、2000年にWHO(世界保健機関)によって公表されました。平均寿命から介護年数(自立した生活ができない)を引いた年数が健康寿命になります。2004年のWHO保健レポートでは、日本人の健康寿命は男性72.3歳、女性77.7歳、全体の平均75.0歳で平均寿命と共に世界第1位と発表されています。しかし厚生労働省は、2010年の統計で日本人の健康寿命は男性で70.42歳、女性で73.62歳と発表しています。数値の違いは、健康寿命の定義の違いによるもので、医療機関に通院しながらの健康寿命をカウントしていないからです。2010年度の平均寿命は男性79.59歳、女性86.35歳ですが女性の場合は13年近く、男性で9年間は寝たきりの生活で介護が必要だと言うことになります。介護を必要としない健康寿命を延ばす為にも住宅の温熱環境が重要です。

糖尿病やリュウマチなどにも改善効果。

心臓病や脳血管疾患は、温熱環境の改善によって予防効果のある病気ですが、実際に罹患している病気も住宅の温熱環境を高める事によって改善される例も多く報告されています。その一つは、脳溢血などで麻痺した肉体が住宅が暖かくなることによって運動量が多くなり、改善効果が見られることです。また、気管支炎や喘息、リュウマチ等も寒さを克服することで改善効果が見られることが報告されています。罹患した後でも住宅の中が暖かく動き回れる自由性があれば、知らず知らずのうちに運動量が増えて改善効果に繋がっているものと考えられています。高断熱住宅における人体への熱量の蓄積は風邪等を寄せ付けない効果もあるようです。

最も健康寿命を短命にするのは、温度差による脳血管疾患。

住宅の高断熱化で脳血管疾患・脳梗塞は確実に低下しています。

出典:厚生労働省

上のグラフは平成7年(1995年)、平成12年(2000年)平成17年(2005年)、平成22年(2010年)の脳血管疾患及び脳梗塞の都道府県別年齢調整死亡率をグラフにしたものです。脳血管疾患・脳梗塞の死亡率は、各県とも年々減少して来ていますが、調査が開始された平成7年の段階では、宮城県が男女ともに日本一の脳血管疾患・脳梗塞の死亡率でした。
脳血管疾患・脳梗塞は、塩分取得の多い地域の代表として秋田・青森・岩手県などが多いと思われがちですが、宮城県と同じように福島や茨城、栃木、群馬県なども脳血管疾患・脳梗塞が多いのですが、これは南九州の鹿児島県や南国土佐の高知県とも一致しています。北海道や北東北と比較すれば暖かい地域ですが、日本の冬は南国の鹿児島でも0℃以下を記録する日数がトータルで1週間程度はあり積雪も珍しくはありませんし、トイレ等の無暖房の室温が10℃以下になる日数もトータルで20日ぐらい有ると考えなければなりません。昔からの伝統的な夏型の住宅を実践してきた地域ですが暖かい地域だという思い込みが脳血管疾患や脳梗塞の発症を促してしまうのです。
健康住宅を造るためにはどの地域でも高断熱性能が基本になります。