九州住環境研究会

No.89 「省エネ基準・義務化」後の「既存不適格」の回避!
2020年の省エネ基準・義務化後に現在、新築住宅の資産価値が激減する恐れ?
耐震基準の変更で生まれた「既存不適格住宅」は省エネ基準の義務化でも起こりうる。

2017年8月29日更新


2020年の省エネ基準の義務化による影響はあるの?

すでにご存じの通り、昨年(2016年)「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が成立しました。
これによって住宅の質の三大要素の一つである「省エネルギー性能」(以後・省エネ性能)の義務化が始まります。住宅の「省エネ性能」に対しての義務、つまり守らなければならない最低限度の省エネルギー基準(以後・省エネ基準)を定める法律です。
現在の「省エネ基準」は「日本住宅性能表示基準」温熱環境対策等級1〜4で定めていますが、義務化はありません。「省エネ基準」が任意基準だった事を意外に思われるかも知れませんが、これまで我が国では住宅の「省エネ性能」に最低基準という縛りはなく、縛りがある場合は「住宅金融支援機構」の(フラット35)など、公的融資を受けるための要件に盛り込まれ、融資を受けなければ、無断熱の住宅でも合法的に建てられます。
冬に暖房が必要となる先進国で、無断熱でも住宅が建てられる国は日本以外にはありません。住宅の「省エネ性能」がフランチャイズや先進的な工務店でガラパゴス化しており、我が国全体では、断熱性能とは名ばかりの非常に低い断熱性能のままで、今日に至っています。

国が決めた住宅の質の三大要素は「耐震・耐久・省エネ」

(図・1)のように、2020年の義務化でようやく先進国の仲間入りを果たすことになります。
2020年からの施行なら『今なら高性能を求める必要は無いのだから、義務化される前に出来るだけ安い住宅会社で建ててしまおう』そのような考えを持つ建て主様は、いないとは思いますが「フラット35」の要件程度で施工している施工店の場合は、そのような考え方で住宅を建てているかも知れません。少なくとも『2020年から「省エネ基準」の義務化が始まります。当社ではこの様な対応を行っています』と言う、義務化に対する明確な対応策を語ってくれる施工店を選ぶべきではないでしょうか?義務化の話をしてみて、対応策が示せない施工店は選択から外すべきだと思います。

義務化前に建てられた住宅の評価はどのようになるのか?

この法律は私達の生活に大きな変化を起こす可能性があります。今、住宅を所有している皆様や建築中の皆様、2020年までに住宅を建築・購入予定の皆様は、この法改正が住宅購入者にどの様な影響があるのかを知っておく必要があります。
2020年の「省エネ基準」義務化以降の基準に満たない住宅を建ててしまった場合、義務化以降は車の場合なら型落ちになるという意味で将来の資産価値が低くなってしまいます。我が国も欧米並に中古住宅の流通が普通になる時代に、新築したての住宅が、断熱不良の資産価値の低い住宅として扱われる危険があるからです。

過去に類似した法改正、「耐震基準」の例

実は過去にも似たようなことがありました。それは三大要素の一つである「耐震性能」です。耐震基準には1981年に施行された、現在の基準である「新耐震基準」とそれ以前の「旧耐震基準」という2種類の基準が併存しています。1981年より前の「旧耐震基準」の建物を「既存不適格」といいます。現在の耐震性を満たしていない違法建築という意味です。ただ、違法建築と言ってしまうと、建てた当初は合法だったので「既存不適格」という呼び方をしました。現行法で見るとNGですが、建築当時は適法でしたので、限りなく違法に近い建築物という意味です。今から36年前の法律ですから当時新築された住宅も、木造住宅の場合は多くが建て替えられていて問題は少ないのですが、大規模マンションの場合は人命に関わることなので、大方は耐震補強されました。しかし中・小規模マンションの場合、このマンションを財産と見たときにどのように影響したのか?これから住宅を建てる皆様には重要な示唆になります。
「既存不適格」のマンションは耐震改修しないと流通しませんが、流通しても買いたたかれている現状です。耐震改修が行われない建物は、価値の減衰でスラム化してしまいます。木造住宅も壊すか、耐震改修するか、という課題を改正以来30年以上にわたって強要され、それが建て替え時期を早めたことは確かだろうと思います。

耐震と同じことが「省エネ」義務化でも起こりうる?

『2020年の「省エネ基準」といわれても、まだ公表もされていないので施工できない』多くの施工店の理屈です。しかし表・1の経産省のZEH(ゼッチ)基準等で概案は示されています。ZEHの平準化が始まっている現在、公的な断熱評価ではこの基準が最も高性能を求めています。今後、新築住宅を建設予定の場合、「省エネ性能」は2020年の義務基準(最低基準)予定の現行「省エネ基準」等級4レベル」で建てる必要があります。
実は今、新築されている住宅の半数は2020年以降の最低基準、現行基準の4等級を満たしていません。2020年の「省エネ基準」に着目しておかないと50%以上の確率で、3年後に資産価値が激減してしまいます。35年の住宅ローンを組んだのに、残り32年にして「既存不適格」扱いされてしまうという、とんでもないことが目の前で起ころうとしているのです。
今回、松下孝建設が建設している「HERT20」G1・G2モデルは2020年基準の鹿児島7地域基準を上回る性能で建築されています。将来「既存不適格リスク」を回避するためにも、これから住宅建築を考えている方には是非、一度見学を勧めたい展示場です。