九州住環境研究会

No.51 IPPC第5次評価報告書 第2作業部会報告 人間・自然の適応限界を超えると警告。
今回は前回の続きです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書から見えるもの(2)!

2014年02月12日更新


温暖化対策、日本は50位、中国にも抜かれて「落第」グループ。

昨年12月の産経新聞にこんな記事が載っていました。
【世界の主要58の国と地域で、地球温暖化対策が最も進んでいるのはデンマーク。日本は50位で「落第」とする温暖化対策ランキングをドイツの環境シンクタンク「ジャーマンウオッチ」などがまとめた。温室効果ガスの排出量が増加傾向にあるため2013年の日本の順位は前年の44位から後退し48位から46位にランクを上げた中国にも抜かれた。中国は再生可能エネルギーが大幅に拡大していることなどが評価された。
温室効果ガスの排出量や再生可能エネルギーの比率、エネルギーの利用効率に関するデータに、政策分析の結果を加えた指標を作り採点した。
産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑える国際目標の達成に向け十分な対策を取っている国がないことから前年度と同様、1~3位は「対象国なし」で、トップは4位のデンマーク。日本はエネルギーの利用効率でやや成績がよかったものの47・21点で「落第」とされた15の国と地域の中の一つに。大排出国の米国は43位、インドは30位だった。】
この記事を読んで愕然とされた方も多かったと思います。
PM2.5で大気汚染大国の中国よりも日本の方が温暖化対策では後れを取っているばかりか、アメリカやインドよりも下位にあるのです。
落第国15ヶ国の中に入っているというのですから驚かないわけにはまいりません。
しかしこれが現実です。我が国の環境政策は原子力発電なしでは語ってこなかったのですから、いかに原子力発電に頼ってきたのか、それが停止してしまえば完全な落第国なのです。ここでは原子力発電の善し悪しを言うつもりはありませんが、もう少し懐の深い環境対策やエネルギー政策が必要なのではないかという疑問が皆様にも芽生えているのではないでしょうか。
地球温暖化が急速に進み、産業革命以前の2℃以内の気温上昇に抑えるという世界的なプロジェクトに参加している先進国としては、かなりお粗末な話に思えます。原子力発電が稼働しているときに、自然エネルギー開発にも、もう少し力を入れておくべきだった様で停止してから騒いでも後の祭りです。
アメリカの原住民のナバホ族には「自然は未来の子孫からの借り物」という諺があると言うことですが、我々日本人も、未来を綺麗なままの地球で残してあげたいという思いがあれば、ワンプラネット・リビングを思い起こしてほしいものです。

遅れれば遅れるほど危機が増幅していく地球環境。

IPCCは、各国が我が国のように本格的な対策の開始を2030年まで遅らせた場合、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃以内に抑えるという国際目標の達成が困難にになるとして加盟各国に早期の対策の実施を求めています。
IPCCの温室効果ガスの削減対策を担当する作業部会が、まとめた最終案では、国際目標の達成について、393ppmに達している現在の世界の二酸化炭素の平均濃度を2100年の時点までに430ppmから480ppmの範囲以内に留めることができれば、産業革命以前に比べて2℃以内に抑えるという国際目標は達成できる可能性が高く、480ppmから530ppmの範囲でも目標を達成できる可能性は5割以上だと予測しています。
但し、この場合も各国が現在掲げている削減目標では、数量的には不十分で、このまま対策の開始を2030年まで遅らせることがある場合は、平均濃度を530ppm未満にとどめるために、まだ実用化されていない、二酸化炭素を大気中から分離除去する新技術の開発が必要になり、目標の達成がより困難になるとして、今できる早期の対策の実施をもとめています。

第2作業部会では人間や自然の適応限界を超えると警告。

新年早々に原案が明らかになったIPCCの第2作業部会報告書では「地球温暖化によって食料生産が減少し人間の安全が脅かされている」と指摘しています。
今年3月に横浜市で開かれるIPCCの会合で、国連の気候変動に関する政府間パネルが7年ぶりに改定され報告書を承認する事になっていますが、その内容は「温暖化が進むほど克服困難な悪影響が広範囲に生じ、人間や自然が適応できる限界を超える恐れが高くなる」と従来以上に踏み込んで、危機を警告する内容が示されています。
「今後数十年で温室効果ガス排出を抑制できれば、今世紀後半の気候変動リスクを軽減できる」として、第2作業部会の報告書もまた各国の環境対策、政策立案の基礎資料になり、温暖化対策をめぐる国際交渉に大きな影響を与える事になります。
第2作業部会報告書の原案は熱波や洪水、生態系の異変など気候変動の深刻な悪影響が「既に陸、海とも広範囲で観測されている」と指摘しており、特に小麦、米、トウモロコシなどの穀物生産は今後10年ごとに0~2%減るとし、食糧危機の到来を予告しています。
産業革命前と比べて世界の平均気温が2.5℃上昇すると、世界経済の損失は、収益合計の0.2~2.0%に達するとしており、温暖化によって飲料水や漁業資源の分布も大きく変わり、分配をめぐって国家間の紛争が増える恐れがあるという報告になっています。